大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 平成5年(行ク)2号 決定 1993年12月24日

申立人

青森県地方労働委員会

右代表者会長

高橋牧夫

右指定代理人

渡辺利雄

良原せつ

櫻田喜代司

三上京一

藤本幸男

成田哲朗

申立人補助参加人

全国自動車交通労働組合連合会青森地方連合会ポストタクシー支部

右代表者執行委員長

甲田太郎

右訴訟代理人弁護士

石岡隆司

被申立人

ポストタクシー株式会社

右代表者代表取締役

西條覚右衛門

右訴訟代理人弁護士

熊谷清一

主文

一  被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁平成五年(行ウ)第三号救済命令取消事件の判決が確定するまで、申立人が、青地労委平成四年(不)第一号不当労働行為救済申立事件について、平成五年九月七日被申立人に交付した命令のうち、甲田太郎に対し金一〇三万八四三〇円を支払う限度において従わなければならない。

二  申立人のその余の申立はこれを却下する。

三  申立費用は全部被申立人の負担とする。

理由

一  本件申立の趣旨及び理由は、別紙緊急命令申立書に記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙緊急命令申立に対する意見書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  申立人が、平成五年九月七日、主張のような内容の救済命令を、被申立人に交付したことは、(証拠略)によって認められる。

三  そこで、右救済命令の各項について、労働組合法第二七条第八項の決定(以下「緊急命令」という。)をする必要性ないし相当性の有無について判断する。

1  申立人の発した本件救済命令は、被申立人が甲田太郎に対してなした臨時健康診断実施の指示、出勤停止処分及び乗務禁止処分について、いずれも不当労働行為に該当するとの判断のもとに、これを救済するため発せられたものであることは、(証拠略)により明らかである。

2(一)  そこで、まず、本件救済命令第四項について判断するに、(証拠略)によれば、右甲田は、被申立人会社のタクシー乗務員として勤務し、被申立人から支給される賃金を主な収入源として一家四人の生活を支えてきたものであるが、平成四年四月一日、右乗務禁止処分を受け、同年七月一日付けで被申立人会社清掃係及び整備補助係として配置された以後は、同人の給与は月手取額一〇万円程度となったこと、同人は、平成五年二月五日、被申立人から懲戒解雇処分を受け(申立人において青地労委同年(不)第一号不当労働行為救済申立事件として係属中)、現在、同人の世帯の収入源は同人の妻のパート収入のみとなり、その生活が相当窮迫した状態となっていること、以上の二事実を認めることができる。

(二)  また、(証拠略)によれば、被申立人は、同年九月七日、申立人から本件救済命令の交付を受けたが、補助参加人組合の救済命令履行に関する申入にもかかわらず、現在に至るまで、右救済命令を任意に履行していないことが認められる。

(三)  以上の事情を総合して考えるに、もし、主文掲記の不当労働行為救済命令の判決確定に至るまで、右救済命令のうち、右甲田が同年一月までに得べかりし賃金の差額分に該当する金一〇三万八四三〇円の支払いを命じた部分が現実に履行されないときは、右甲田及びその家族の生活は著しく窮乏し、回復し難い損害を被ることが明らかであって、ひいては、右甲田らの補助参加人組合における正当な組合活動にも重大な支障を及ぼすこととなって、仮に右救済命令が本訴において支持され確定したとしても、その実効を期し難い結果となるおそれが大きいというべきである。したがって、本件救済命令第四項の右甲田に対する賃金差額分の支払いを命じた部分については、緊急命令を発する必要性があるというべきである。

3  本件救済命令第一項及び第二項について判断するに、同項で命じた支払い金額及び前記のとおり本件救済命令第四項につき緊急命令が発せられることにより、右甲田及びその家族の経済的安定は一時的にもせよ一応図れることに鑑みると、ただちに第一項及び第二項につき緊急命令を発する差し迫った必要は認められない。

4  また、本件救済命令第三項について判断するに、救済命令未確定で、かつ、右甲田が被申立人会社から懲戒解雇処分をうけ、右処分につき、申立人において現在審理中であるという状況に鑑みると、乗務禁止の取消を緊急命令によって強制することは相当でなく、また、本件救済命令第四項につき緊急命令を発する以上、右甲田らの経済的安定は、一時的にもせよ一応得られるというべきであるから、本項につき緊急命令を発する必要はないというべきである。

四  以上の次第で、本件申立は、主文第一項掲記の範囲においてこれを認容し、その余の部分についてはこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 成川洋司 裁判官 田邊三保子)

<別紙> 緊急命令申立書

申立人 青森地方労働委員会

右代表者会長 高橋牧夫

被申立人 ポストタクシー株式会社

右代表者代表取締役 西條覚右衛門

申立人は、次のとおり緊急命令の申立てを行う。

平成五年一一月一五日

申立人代表者会長 高橋牧夫

申立人指定代理人 渡辺利雄

同 良原せつ

同 櫻田喜代司

同 三上京一

同 藤本幸男

同 成田哲朗

青森地方裁判所民事部御中

申立の趣旨

右当事者間の御庁平成五年(行ウ)第三号救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、被申立人は、申立人が、平成五年九月七日、被申立人に交付した青地労委平成四年(不)第一号不当労働行為救済申立事件命令に従い、その主文第一項乃至第四項記載のとおり履行しなければならない。

との決定を求める。

申立の理由

一 申立外全国自動車交通労働組合連合会青森地方連合会ポストタクシー支部(以下「申立外組合」という。)は、被申立人ポストタクシー株式会社が申立外組合の執行委員長甲田太郎(以下「甲田太郎」という。)に対して精神科の診断を強要したこと、同人がこれに従わないことを理由に出勤停止処分としたこと及び健診センターの結果だけに基づき同人を乗務禁止としたことは、能率給体系賃金導入に反対する組合の中心人物を排除しようとする不当労働行為であるとして、平成四年四月一三日、申立人に救済申立てをし、青地労委平成四年(不)第一号不当労働行為救済申立事件として申立人に係属した。

申立人は、審査の結果、平成五年八月二六日付けで(証拠略)のとおり命令を発し、同年九月七日、右命令書写しを被申立人に交付した。

二 これに対し、被申立人は、平成五年一〇月六日、右命令の取消しを求める旨の行政訴訟を提起し、御庁平成五年(行ウ)第三号救済命令取消請求事件として係属中である。

三 被申立人は、右命令書写しの交付を受けた後も命令を履行していないことは、命令履行状況報告(<証拠略>)から明らかである。

四 また、被申立人は、平成五年二月五日、甲田太郎を懲戒解雇し、申立外組合及び甲田太郎は、右懲戒解雇は不当労働行為であるとして、同年二月二二日、申立人に救済申立てをし、青地労委平成五年(不)第一号不当労働行為救済申立事件として申立人に係属し、現在審査中である。(<証拠略>)

五 したがって、本件行政訴訟事件の判決確定まで申立人が発した前記命令の内容が実現されないならば、甲田太郎及びその家族の生活は甚だしく窮乏し、回復すべからざる損害を被ることはもちろん、申立外組合の組合活動に大きな支障を生じ、ひいては、労働者の団結権に回復することのできない損害を与えることは明らかである。

六 申立外組合は、申立人に対し(証拠略)のとおり、本件について緊急命令を申し立ててもらいたい旨の上申書を提出しており、申立人は、右のような状態がそのまま存続するならば、労働組合法の立法精神が没却されてしまうことになるので、平成五年一一月二日開催の第七六〇回公益委員会議において、労働組合法第二七条第八項及び労働委員会規則第四七条第一項の規定により、本件申立てを行うことを決定した。(<証拠略>)

よって、本件申立に及んだ次第である。

疎明方法(略)

緊急命令申立に対する意見書

申立人 青森県地方労働委員会

被申立人 ポストタクシー株式会社

申立人の平成五年一一月一五日付緊急命令申立に対する被申立人の意見は次のとおりである。

平成五年一二月七日

右被申立人代理人弁護士 熊谷清一

青森地方裁判所御中

第一 申立の趣旨に対する意見

申立人の申立を棄却するとの決定を求める。

第二 申立の理由に対する意見

一 被申立人は、青地労委平成四年(不)第一号不当労働行為救済申立事件についての平成五年八月二六日付救済命令を不服として平成五年一〇月六日、同命令の取消を求める旨の行政訴訟を貴庁に提起した。

二 甲田太郎に対する本件乗務禁止処分は、甲田太郎が躁病であり、かつ、心臓病に罹患していることを理由とするものであり、人を安全確実に輸送するという社会的使命を負うタクシー会社として、被申立人が右乗務禁止処分をなすことは、至極当然のことであり、義務でもある。

仮に、甲田太郎及びその家族の生活が窮乏しているとしても、被申立人が甲田太郎に対してなした本件各処分が、被申立人のタクシー会社としての社会的使命を全うするために必要な処分である以上、万やむを得ないものである。

三 右救済命令主文第三項は、「被申立人は、申立人執行委員長甲田太郎に対する平成四年四月一日付乗務禁止を取り消し、速やかに同人を乗務員として就労させなければならない。」とする、

しかし、被申立人は、平成五年二月五日、甲田太郎に対し、同人が平成四年一二月二九日被申立人会社運転手申立外柏崎清美に対して脅迫を加えて会社を退職するように強要し、同人をして会社を退職するのやむなきに至らしめたことを理由として、懲戒解雇処分をなした。

従って、仮に乗務禁止を取り消したとしても、甲田太郎は右のとおり既に懲戒解雇処分に付され、既に被申立人会社の社員としての身分を喪失しているのであるから、同人を乗務員として就労させることは不可能である。また、同項につき、緊急命令が発せられる時は、被申立人に回復すべからざる損害が発生することは明らかである。

ところで、右懲戒解雇処分につき、青地労委平成五年(不)第一号不当労働行為救済申立事件として申立人に係属し、現在審理中であるが、甲田太郎が柏崎清美に対して脅迫を加えて会社を退職するように強要したことは柏崎清美等の証言等によって明らかであり、被申立人の右懲戒解雇処分は正当であって、なんら不当労働行為を形成するものでないと確信している。

四 よって、申立人の緊急命令の申立は、本件救済命令主文第一項乃至第四項いずれについても棄却されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例